今回はS社の取った再発防止策を取り上げます。S社の場合、問題が2つあり、立ち退き業務を無資格で行っていたことに対する再発防止策と、反社会的勢力と取引しないための再発防止策になりますが、ここでは後者の再発防止策の主なものを取り上げます。
(1)役員体制の見直し
S社では、コンプライアンス体制の確立・強化を積極的に推し進める上で適任と思われる人物を外部から招聘し、役員体制を見直ししました。具体的には、元警察庁生活安全局長、元検事の方を社外取締役として迎えました。
(2)コンプライアンス委員会の充実
S社内では、もともと、企業不祥事の防止を目的として、コンプライアンス委員会を設置していましたが、いつの間にか招集・開催が不定期になり、有効に機能している状態ではなくなってしまいました。
役員体制の見直し後、コンプライアンス委員会規程を新たに策定したうえで、開催頻度も定時取締役会の後にするなど定例化し、運用面でも見直しを図っています。
(3)プロジェクト審査部の新設
S社では、既存の法務部に加え、プロジェクト審査部を新設しました。この部署は主に不動産ソリューション事業に関連して、反社会的勢力の介入を未然に防止するため、契約管理等全般にわたる事項を分掌しています。
具体的には、不動産ソリューション事業に関連する新規契約先企業を対象として、外部専門機関との連携等を通じて得た情報に基づき、当該企業が反社会的勢力であるおそれがあるか否かについて審査を実施するなどしています。
(4)生活安全室の新設
S社では、生活安全室を新設しました。同部署は、営業部において進める立退き交渉等の過程で生じる様々な問題に対する諸対処について、コンプライアンス上の観点から支援等を行う役回りを果たすためです。
(5)役職員の意識改革・法令等の研鑽の一層の徹底
不動産ソリューション事業に傾倒するあまり、利益重視、スピード重視が過ぎてしまい、法令に対する理解不足、反社会的勢力との関係根絶に向けた意識が低下してしまっていました。そこでS社では、弁護士など外部専門家を招き社内研修会を開くなど、法令順守に向けた意識を高める活動をしています。
(6)外部専門機関との連携体制の整備・強化
S社では外部専門機関との連携体制の整備・強化に努めました。例えば、都道府県単位で組織されている企業防衛対策協議会に加入しました。
次いで、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律が定める「不当要求防止責任者」を選任し、公安委員会に届出を行い、公安委員会が開催する同責任者講習を受講するようにしました。
さらに、警察官友の会、防犯協会、防犯協議会といった各種団体にも積極的に加入し、警察当局との関係を構築しています。
(7)まとめ
以上、S社の再発防止策をご紹介しました。S社の場合、取引開始時に金融機関に信用照会を行いましたが、これはあくまで与信面での審査で、反社会的勢力であるか否かの審査ではありませんでした。とはいえ、金融機関に反社会的勢力であるか否か問い合わせをすれば答えてくれる訳でもありません。また、株主に上場企業名があるから安心という訳でもありません。では、一般の企業の場合、どうやって属性調査したらよいのでしょうか。やはり一番明快な解決方法として、公的なデータベースなり、調査機関の設立、運用ではないかと思いますが、その情報の収集、管理方法、照会・回答したデータの取扱などを慎重に行う必要があり、運用面にいくつか大きな課題が残っています。
属性調査の他、反社会的勢力に入りこまれないための施策としては、反社会的勢力との関係を断絶する旨の宣言を体内・対外的に行う、契約書に暴力団排除条項を導入するなど、企業側から、反社会的勢力とは付き合わないと意思表示をする方法が考えられます。
これを読まれている読者の皆様も、業務改善や内部統制を考える上で参考にしてみてください。