今回の事例は、これまでと少し観点を変えて、反社会的勢力について考えてみたいと思います。
「反社会的勢力」という言葉を聞くと、暴力団や、不法行為を生業にしてお金を得ている人々を指すことが推測できますが、法律上の定義はどうなっているのでしょうか。
(1)「組織犯罪対策要綱の制定について」
まず、平成16年10月25日に警察庁次長から「組織犯罪対策要綱の制定について」という通達が出されました。この通達は、全国の警察が、組織犯罪の実態を把握し、その対策を講ずることで、組織犯罪の弱体化を図り、市民生活の安全を図るというものでした。その中の「第7 組織犯罪の重点」で、「暴力団・暴力団関係企業・暴力団員等」という、暴力団以外の広い概念の定義が登場しています。順に見ていきますと、下の通りになります。
(ア)暴力団
(イ)暴力団員
(ウ)暴力団準構成員
(エ)暴力団関係企業
(オ)総会屋等(総会屋、会社ゴロ等企業等を対象に不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うおそれがあり、市民生活の安全に脅威を与える者をいう。)
(カ)社会運動等標ぼうゴロ(社会運動若しくは政治活動を仮装し、又は標ぼうして、不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うおそれがあり、市民生活の安全に脅威を与える者をいう。)
(キ)特殊知能暴力集団等((ア)から(カ)に掲げる者以外の、暴力団との関係を背景に、その威力を用い、又は暴力団と資金的なつながりを有し、構造的な不正の中核となっている集団又は個人をいう。)
このように、反社会的勢力の概念は、組織犯罪を行う団体(もしくはその構成員)を念頭にしているものと思われます。
(2)「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」
次いで、平成19年6月19日には犯罪対策閣僚会議幹事会申し合わせとして、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が出されました。その中で、反社会的勢力が、前項(2)の(ア)~(キ)のどの項目に該当するのかに加え、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった、実際の行為にも着目することが重要であるとしています。
(3)暴力団、暴力的要求行為とは
「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(通称:暴対法)によれば、第2条2項に、暴力団とは、「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいう。」と定められています。
暴力的不法行為等とは、暴力的要求行為の禁止として、同法第9条に書かれています。具体的には27類型あり、例えば、
・口止め料を要求する行為
・寄付金や賛助金等を要求する行為
・下請け参入等を要求する行為
・用心棒代等を要求する行為
・高金利の債権を取り立てる行為
・土地・家屋の明渡し料を要求する行為
などがあります。その他の項目、各項目の説明については、
『全国暴力追放運動推進センターのサイト』をご覧ください。
(4)反社会的勢力をどうやって調べるか
反社会的勢力の定義は分かりました。暴力団をはじめ、総会屋、社会運動等標榜ゴロ、特殊知能犯罪集団で、暴力的な要求行為をする人々であると。しかし、このような反社会的勢力に属しているということをどうやって調べればよいのでしょうか?クレジットカードの与信情報のように、どこかに管理登録されているのでしょうか。
「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」では、不当要求情報に関する情報の収集及び事業者に対する情報の提供を業とする者として、「不当要求情報管理機関」という団体を作ることを規定しています。財団法人競艇保安協会、財団法人競馬保安協会、社団法人警視庁管内特殊暴力防止対策連合会が登録されていましたが、平成21年3月に日本証券業協会も登録を受けました。
しかしこれは、業界団体の中で情報を収集し、照会があれば回答できる仕組みが作ることができるという話で、普通の企業が反社会的勢力であるか否かを調査するのは相当難しく、地道な作業が伴います。反社会的勢力を調べる手段として考えられる方法は、新聞記事・雑誌等の公知の情報を収集して独自のデータベースを構築する、日経テレコン等の有料の新聞記事検索サービスを利用する、調査会社に依頼して属性に関する情報を照会することが考えられますが、どれが正しい方法という訳ではありません。むしろ、どの情報が正しいか分からないから何もしない、どうやって調べたらよいか分からないから調査しないという方が危険かもしれません。
次回は、反社会的勢力との取引が明るみにでた元上場企業の事例をご紹介したいと思います。