今回は、形だけの検収書を受領し、売上の早期計上をしてしまったP社のとった改善策をご紹介したいと思います。
(1)経理規程等の整備及び会計知識の教育
P社の経理規程等には、詳細な検収基準が明文化されておらず、検収基準を都合よく解釈し、検収書さえ受領すればよいと考えたことが、不適切な会計処理をもたらした原因の一つでした。
改善策として、経理規程等を整備し、検収基準を明記し条件を定めたうえで、経理規程違反の場合の罰則について懲戒規程を定め、再発防止の抑止策としました。
また、役員・従業員に対し、コンプライアンス及び会計知識に関する教育を実施し、意識改革を行いました。
(2)売上計上基準の明確化
P社では、販売契約段階において取引先と契約内容について相互の十分な協議が無いまま契約を締結してしまうことがあったようで、これまで商品の完成間近、または商品完成後の検収チェックの段階になって両社の認識の違いが判明し、その違いが顧客との論争の原因となり、出荷後に追加的な費用の発生を招く原因となっていました。
改善策としてP社は、取引先との取引について契約書を取り交わし、当該契約書中に取引先との合意に基づく検収条件を明確に定め、その検収条件がすべて満たされた段階で売上計上するよう契約書による検収条件の明確化を図りました。
(3)検収書受領時の相互牽制機能の強化
過去において、検収書の発行者と受領者が同一人物である場合等があり、所属長の承認を得ずに担当者ベースで検収書を発行・受領している場合や、取引先担当者のみの捺印で済ませていたりとずさんな管理をしていましたが、改善策として、検収書受領にかかる業務マニュアル、業務フローを構築し、検収書の発行者と受領者が同一人物にならないような体制を構築しました。
(4)追加工事ゼロを目指して検収を行うための工程および生産管理
これまで検収書を受領したものの、その後追加工事を求められる場合があり、それが原因となって、不適切な会計処理を行ってしまいました。
改善策として、追加工事が発生しないよう、商品の出荷に先立ち、検収前の業務手順として、取引先との認識の相違点がないか、商品の修正点がないかなどについて取引先と打ち合わせを行い、相違点がある場合は修正したのち出荷し、納入後最終検収を行うことにより売上計上が円滑に行われるよう、工程管理、生産管理を行うこととしました。
(5)まとめ
以上P社の事例をご紹介してきました。P社の事例では、会計知識が乏しかったことに加え、取引先との間で、契約内容を十分に協議しないまま製造を開始していたというのが、つまづきの始まりで、完成間近での修正作業→コストの増加→納期遅れ・納品後の追加工事の発生→売上の早期計上への焦り→「形だけの検収書」の受領、と悪循環に陥っていました。「とりあえず検収書!」という言葉は、実は大変危険な言葉であり、その裏の検収までに至る業務が出来ていないという証拠だと言えます。
これを読まれている読者の皆様も、業務改善や内部統制を考える上で参考にしてみてください。