今回は、架空在庫の計上の実際の事例と原因を探っていきたいと思います。それでは早速、見ていきましょう。
【事例】
ある衣料品量販店における架空在庫の事例。監査法人から、中間期の監査において、過去における在庫金額の計上が、誤っている旨が指摘された。管理担当の元取締役に話を聞くと、架空在庫の計上が明らかになった。
その手口は、POSレジを使用していないアウトレット店舗において、シーズンを過ぎた商品の管理のために使用している集約品番について、実地棚卸原票の未使用ページに、実在しない集約品番の在庫を計上し、架空在庫の計上が行われた。さらに、単価の安い倉庫在庫を、アウトレット店舗においても、同数の集約品在庫として計上し、その評価額を増額させていた。さらに、他の集約品番在庫の評価額を水増しさせていた。
【主な原因】
・元取締役は、業績の下方修正は、当社の信用低下につながると考えていた。また、自分自身の個人的な信用も失墜しかねないと考えていた。
・元取締役は、入社以来一貫して管理部門に管掌しており、一任される状態であった。それゆえ、経理の実務や業務のプロセスについて、他の取締役からのけん制がなかった。
・毎期の業績予想の数値は、中期経営計画等を反映させたものではなく、経理部が、前年実績をベースに、各部門別の業績目標値を作成していた。
・全社的な予算を作成することがなかったため、予算と実績のかい離について、問題点の分析が行われなかった。
・月次における店舗在庫の継続記録が行われておらず、在庫金額の変動を把握できていなかった。また、売上総利益の算出に必要な総仕入、総在庫、評価損は、取締役会で報告されていなかった。
・アウトレット店舗では、シーズンを過ぎた商品の売り切りを行っており、単品管理を行う必要性がなく、POSレジを導入しておらず、在庫数量を操作できる環境にあった。
この事例では、在庫の架空計上、評価金額の水増しを行っていましたが、その背景には、目標業績に対する強いこだわりがあったようです。それにも増して、店舗在庫の継続記録が取られておらず、在庫金額の把握が出来ていなかったのは大きな問題でした。
次回は、この会社が取った改善案をご紹介したいと思います。