前回は、改善報告書の事例を紹介しました。今回は、改善すべき点、再発防止策を取り上げたいと思います。
再発防止策は、前回も書いた内容も含めると次のような事項になると考えられます。
【再発防止策】
①受注~売上計上~出荷に関連する業務フローにおいて、組織間の相互けん制を行う。
前回も書きましたが、どのような業務であれ、特定の社員に任せきりにすることはリスクが高いと考えてください。
業務内容について組織間のけん制を設ける、担当者の定期的な人事異動を行うなど改善案として考えられます。
②社外請求書と社内売上伝票との照合を行う。
社外に出される帳票と社内伝票は、同一取引に関して発行されていれば一致しているものと思いがちですが、今回はこの照合機能の不備をついた格好です。
特に売上に関係する書類で重要性も高く、それぞれ照合し、正確な売上の計上に万全を期す必要があります。
③売掛金の滞留チェックを行う。
売掛金の滞留チェックをまめに行うことは、債権の回収可能性を検討することはもちろん、売掛債権の内容を適宜把握することで、今回のような不正取引の早期発見、不正行為者へけん制にもつながります。
④出荷指図書を証憑として残す。
この会社では、口頭による出荷指図が行われていたようですが、これも改善すべき点です。
出荷指図書については、証憑として残すことで、正確な伝票起票を行う上で重要な書類となるほか、出荷ミスや不正行為の防止に役立ちます。
④度重なる訂正、取消処理の内容を把握する。
システムに関係する点では、単価訂正と偽って何度も売掛金の再入力をして滞留債権から逃れていたという点から、売掛金に限らず、度重なる訂正、取消処理については、その理由を確認する必要があります。
それでは、実際にこの会社が取った再発防止策を見てみましょう。
【再発防止策】
① 売上入力は、課内の入力担当が、倉庫会社の出荷報告書と出荷依頼書を照合し、出荷報告書から直接入力する。
② A事業部内の経理担当は、販売管理システムから出力された請求書と出荷報告書との照合の後に、担当上司の承認を必ずもらう。
③ 社外請求書と社内売上伝票を一致させ、債権債務残高を常に把握すること。
④ 滞留売掛金の状況について、売上計上後2ヶ月を越えた先について、製品事業部の経理担当が直接販売先へ確認を行い、社内他部署も内容をチェックする。
⑤ 単価訂正を行う際は、理由書を添付の上、上司の承認を必要とする。
⑥ 仕入処理を行う際は、発注書、仕入先納品書(又は請求書)、倉庫の入庫報告書を添付し、製品事業部の担当者、上司の照合確認後、仕入入力を行う。
⑦ 販売先からの出荷の際は、必ず書面で出荷依頼書を入手し、これに基づき倉庫会社に対し、当社専用の出荷指図書で出荷指示を行うこととする。
⑧ 仕入先からの指定倉庫以外への直送は原則禁止する。
最後に、この事例を例に、出荷業務におけるリスクはどのようなものが考えられるでしょうか。
・ 売上明細が改ざんされるリスク(再発防止策①②③④⑤⑦⑧)
・ 受注に基づかない出荷依頼が行われるリスク(再発防止策①③⑧)
・ 売上入力の明細を誤るリスク(再発防止策①②⑧)
・ 倉庫が出荷依頼に基づかない出荷をするリスク(再発防止策⑦)
・ 商品が横流しされるリスク(再発防止策⑧)
再発防止策⑥については、購買業務に関して、架空取引が行われるリスク、発注明細が改ざんされるリスクに対応していると考えられます。
今回は、改善報告書の事例をもとに、出荷業務におけるリスクを分析しました。
再発防止策として挙げられている内容は、会社の業務を運営する上で極めて基本的な事項ばかりです。
これを読まれている読者の皆様も業務改善や内部統制を考える上で参考にしてみてください。